滋賀県大津市
膳所焼の歴史
膳所焼(ぜぜやき)の歴史は江戸時代初期の元和年間(1620年代)、膳所藩主・菅沼定芳が、領内の土を用いて窯を築かせたことに始まります。
その後、藩主となった石川忠総の時代に、稀代の茶人・小堀遠州の指導を受け、「遠州七窯(えんしゅうなながま)」の一つに数えられるほどの名声を確立しました。藩の御用窯として、将軍家への献上品や諸大名への贈り物として焼かれたため、一般には流通しない「お止め焼」として、その希少性と品格が守られてきました。
明治維新後に一度は途絶えましたが、大正時代に地元の熱意ある有志や、安土桃山時代以来の茶道の伝統を愛する人々によって再興され、現在も「茶の湯の心」を伝える器として大切に焼き継がれています。
膳所焼の作風
「用の美」というよりは「芸の美」と呼ぶにふさわしい、凛とした佇まいが特徴です。
- 鉄錆釉(てつさびゆう): 膳所焼の代名詞。漆黒に近い深い黒の中に、鉄分による独特の錆色が混じり、鈍い光沢を放ちます。
- 薄造り: 遠州の好んだ「綺麗寂(きれいさび)」を体現するように、手捏ね(てづくね)に近い繊細な薄さで成形されます。
- 安南風(あんなんふう): 呉須(藍色の絵具)を用いた、ベトナム伝来の意匠を写した作品も得意としています。どこか異国情緒がありつつも、日本の茶室に馴染む上品さが魅力です。
- 控えめな絵付け: 派手な装飾を避け、土の色気と釉薬の変化(景色)を主役にする、引き算の美学が貫かれています。
膳所焼の主な作家・窯元
- 膳所焼 陽炎園(かげろうえん): 大正時代に膳所焼を再興した名門。歴代「岩崎新定」の名を継承し、現在も膳所焼の正統を支える中心的な存在です。
膳所焼を見に行く
琵琶湖の南端、大津の歴史を感じながら巡るのがおすすめです。
- 陽炎園(展示館): 膳所焼の代表的な作品や、古膳所の名品を鑑賞できます。庭園や茶室も備わっており、茶陶が生まれる背景を肌で感じられます。
- 滋賀県立美術館: 地元の文化遺産として、重要文化財級の古膳所が収蔵・展示されることがあります。