砥部焼

愛媛県伊予郡砥部町周辺

砥部焼の歴史

砥部焼の始まりは江戸時代中期、大洲藩の財政を立て直すために、藩主・加藤泰候(かとう やすとき)が磁器の製造を命じたことに遡ります。砥部では古くから「砥石(といし)」の生産が盛んでしたが、磁器の原料として着目されたのは、なんとその砥石を切り出す際に出る「屑(くず)」でした。

当初は技術不足に苦しみましたが、肥前(有田)から陶工を招くなどして研鑽を積み、1777年にようやく磁器の焼成に成功しました。江戸時代後期には、安価で丈夫な「くらわんか碗」が瀬戸内海の流通網に乗って広く普及し、庶民の器としての地位を確立します。

昭和に入ると、民藝運動のリーダーである柳宗悦や濱田庄司らが砥部を訪れ、その健康的で屈託のない「用の美」を高く評価しました。現在では、100以上の窯元がひしめき合い、伝統的な意匠を大切にする窯から、モダンで北欧家具にも合うデザインを手掛ける若手・女性作家まで、非常に層の厚い産地となっています。

砥部焼の作風

砥部焼の最大の特徴は、白磁の「白」と染付の「藍」のコントラスト、そして手にした時の「ずっしりとした重み」にあります。

  • 厚手の素地: 他の磁器産地と比べても厚手で頑丈に作られています。縁(ふち)が欠けにくいため、家庭で日常的に使う「普段使いの器」として最適です。
  • 唐草文(からくさもん): 砥部焼を象徴する模様。筆の勢いを活かした、おおらかな唐草模様は、飽きのこない普遍的な美しさを持っています。
  • 呉須(ごす)の藍色: 砥部焼の絵付けは、深みのある藍色が基本です。手描きならではの、一つひとつ微妙に異なる筆跡に温かみを感じられます。
  • 多様な現代デザイン: 近年は「砥部焼=青と白」という枠を超え、パステルカラーの釉薬を用いたものや、ドット柄、ストライプ柄など、現代の食卓にフィットする自由な表現が増えています。

砥部焼の主な窯元

  • 梅山窯: 砥部焼最大の規模を誇る老舗。「唐草」などの伝統的な文様を確立し、砥部焼のスタンダードを作った窯元です。
  • 中田窯: 古き良き「くらわんか碗」の雰囲気を大切にしながら、現代的な幾何学模様などを取り入れた、センス溢れる作品で人気です。
  • ヨシュア工房: 独自の「ヨシュアブルー」と呼ばれる、深く鮮やかな青色のグラデーションが美しく、現代的な感性で注目を集めています。

砥部焼を見に行く

砥部町は「坂の上の雲」の舞台でもある松山市からほど近く、アートと手仕事の香りが漂う町です。

  • 砥部焼伝統産業会館: 砥部焼の歴史資料の展示や、現代作家の作品が一堂に会する場所。まずはここを拠点にするのがおすすめです。
  • 砥部焼の里(五本松地区): 多くの窯元が密集しており、路地のいたるところに陶片が埋め込まれた道や、レンガ造りの煙突を見ることができます。
  • 砥部焼まつり: 毎年4月(春)と11月(秋)に開催される一大イベント。数多くの窯元がテントを並べ、格安で「掘り出し物」を手に入れるチャンスです。

砥部焼リンク