三重県伊賀市周辺
伊賀焼の歴史
伊賀焼の歴史は古く、奈良時代に遡ると言われています。当初はすぐ隣に位置する信楽と同じく、日常用の壺や甕（かめ）などが焼かれていましたが、伊賀焼が日本の陶磁器史において特筆すべき輝きを放つのは、安土桃山時代から江戸時代初期にかけてのことです。
この時代、伊賀を治めた筒井定次や、その後の藤堂高虎ら「茶人好みの領主」の指導のもとで、茶の湯のための器、いわゆる「古伊賀」が誕生します。
伊賀焼が他の産地と決定的に異なるのは、その「力強さ」です。美濃の織部焼が「破調の美」を追求したのと時を同じくして、伊賀でもあえて歪ませ、ヘラで深い溝を刻み、耳（取っ手）を付けた、非常に彫刻的で力強い花入や水指が焼かれました。これらは千利休や古田織部といった名だたる茶人たちに高く評価され、当時の「数寄」の極致として君臨しました。
しかし、江戸時代中期に入ると茶の湯の流行の変化とともに一度は衰退し、一時は「幻の陶器」となります。その後、江戸後期に藤堂藩の復興策によって日常雑器（耐熱性の高い土を活かした土鍋など）の産地として再興しました。
現代においては、その優れた耐熱性を活かした「伊賀の土鍋」が全国的に有名である一方で、桃山時代の「古伊賀」が持つ圧倒的な造形美に挑む個人作家も多く、実用と芸術の両面で強い存在感を放っています。
伊賀焼の作風
伊賀焼の最大の特徴は、「ビードロ」と呼ばれる緑色の自然釉と、「焦げ」、そして「変形」にあります。
伊賀の土は、かつての琵琶湖の底であった層から採れる「古琵琶湖層」の粘土で、非常に耐火性が高く、木節（きぶし）粘土を多く含みます。この土を高温で長時間焼き続けることで、燃料の薪の灰が器に降りかかり、ガラス質となって溶け出したものが美しいエメラルドグリーンの「ビードロ」となります。
また、信楽焼と非常によく似ていますが、一般的に「伊賀は耳付（みみつき）、信楽は耳なし」と言われるほど、伊賀焼には造形上の力強い装飾が見られます。さらに、一度焼いたものを再度穴窯で焼く「追い炊き」などにより、表面が激しく焦げ付いた質感を出すのも伊賀ならではの荒々しい美学です。
現代の生活においては、多孔質な土の特性を活かした「呼吸する土鍋」が、蒸気や熱を蓄える調理器具として、プロの料理人からも絶大な信頼を得ています。
伊賀焼の主な作家
- 谷本光生（伊賀焼復興の立役者の一人）
- 谷本景
- 新学
- 渡辺愛子
- 番浦史郎
伊賀焼を見に行く
伊賀焼の里である「丸柱（まるばしら）」地区は、今も山あいに窯元が点在する非常に風情のある地域です。
- 伊賀焼の里 伊賀焼伝統産業会館: 伊賀焼の歴史から現代作家の作品までを一堂に見ることができ、陶芸体験も可能です。
- 長谷園（ながたにえん）: 明治時代から続く代表的な窯元で、登録有形文化財の登り窯を見学できるほか、広大な敷地にギャラリーやショップが併設されており、観光の拠点となります。