愛知県犬山市
犬山焼の歴史
犬山焼の始まりは江戸時代中期の元禄年間、犬山城下から少し離れた今井地区で窯が開かれたことに遡ります。当初は素朴な日常雑器が中心でしたが、江戸時代後期、文化・文政の頃に犬山城主・成瀬正壽(なるせ まさひさ)が熱心に保護・推奨したことで大きく発展しました。
成瀬氏は尾張藩の付家老として高い教養を持ち、京都から優れた陶工を招いて、当時京都で流行していた雅なデザインを取り入れさせました。これにより、犬山焼は「武士の美意識」と「京文化の華やかさ」が融合した、独自の美しさを持つ御用窯としての地位を確立しました。
明治以降も、犬山城を訪れる文化人や茶人に愛され続け、現在は数軒の窯元がその伝統的な意匠と技法を大切に守り続けています。
犬山焼の作風
犬山焼を象徴するのは、一目見ただけでそれとわかる鮮やかな上絵付けです。
- 雲錦手(うんきんで): 犬山焼の代名詞とも言える意匠です。「雲」に見立てた満開の桜と、「錦」のように鮮やかな紅葉を一つの器の中に描き込みます。春と秋、日本の二大絶景を同時に楽しむという、非常に贅沢で風流な様式です。
- 光琳風(こうりんふう): 尾形光琳の画風を思わせる、大胆で装飾的なデザイン。植物や鳥が力強く、かつエレガントに描かれます。
- 赤絵(あかえ): 中国の呉須赤絵(ごすあかえ)を模したスタイル。素朴な白地に赤と緑のコントラストが映え、お祝いの席などにも重宝されます。
- 陶器の温かみ: 犬山焼は磁器ではなく「陶器(土もの)」です。柔らかな土の質感の上に、ガラス質の鮮やかな絵具が乗ることで、独特の立体感とぬくもりが生まれます。
犬山焼の主な作家
- 尾関作十郎陶房: 江戸時代から続く名門で、代々「作十郎」の名を継承。犬山焼の伝統を最も色濃く残す窯元の一つです。
- 後藤陶房: 伝統的な図案を大切にしながら、現代の感性に合う器作りも行っています。
犬山焼を見に行く
犬山城下町は、食べ歩きや散策で非常に人気の観光地です。
- 犬山城下町のギャラリー: 城下町のメインストリートには、犬山焼の器で食事を提供するカフェや、気軽に購入できるショップが点在しています。
- 犬山市文化史料館(城とまちミュージアム): 成瀬氏ゆかりの名品や、犬山焼の歴史に関する資料を鑑賞できます。
- 窯元直売所: 少し足を伸ばして実際の工房を訪ねると、職人の手仕事を間近で見ながら、納得の一品を探すことができます。