長崎県東彼杵郡波佐見町
波佐見焼の歴史
波佐見焼の歴史は、16世紀末の慶長年間に始まります。当初は陶器を焼いていましたが、良質な磁石が発見されたことで磁器製造へとシフトしました。長らく「有田焼(伊万里焼)」の一部として流通してきましたが、その役割は有田が「高級品・輸出用」だったのに対し、波佐見は一貫して「庶民のための良質な日用品」を作ることでした。
江戸時代、波佐見焼を一躍有名にしたのが「くらわんか碗」です。淀川の舟客に「酒くらわんか、餅くらわんか」と声をかけて食べ物を売る際に使われたこの碗は、安価で丈夫なことから、庶民に磁器を普及させる大きな役割を果たしました。また、醤油や酒の輸出用ボトルとして作られた「コンプラ瓶」も、当時の波佐見の生産力の高さを物語っています。
2000年代の産地偽装問題(産地表示の厳格化)をきっかけに「有田」から独立した「波佐見焼」として歩み始め、現代ではその高い技術力をベースに、現代のライフスタイルに合うモダンなデザインへと進化。現在、日本の家庭で使われる磁器の多くを占める、屈指の人気産地となっています。
波佐見焼の作風
波佐見焼に特定の「決まった様式」はありません。それは、常に「時代のニーズ」に合わせて変化してきた産地だからです。
- 透き通るような白磁と呉須(ごす)の青: 江戸時代からの伝統である、白い磁器に青い絵付け(染付)は、清潔感があり飽きがこないデザインです。
- 徹底した分業体制: 型を作る、土を作る、焼く、絵を付けるといった工程が完全に分業化されています。これにより、高品質な製品を大量に、かつ安定した価格で供給することが可能です。
- 現代的なデザイン: 近年は、北欧食器のようなマットな質感や、スタッキング(積み重ね)ができる機能性、遊び心のある幾何学模様など、現代のインテリアに馴染む作品が主流です。
- 丈夫で実用的: 日常の食卓で使うことを前提としているため、電子レンジや食洗機に対応しているものが多く、扱いやすいのも大きな特徴です。
波佐見焼の主な作家
波佐見焼は、作家名よりも「メーカー」や「ブランド」として認知されることが多いのが特徴です。
- 白山陶器 (HAKUSAN): デザイナー・森正洋氏による「G型しょうゆさし」などの名作を生み出し、グッドデザイン賞を数多く受賞しています。
- マルヒロ (HASAMI): 50~60年代のアメリカのダイナーを意識した「HASAMI」ブランドで、波佐見焼ブームを牽引しました。
- 西山 (NISHIYAMA): 北欧風の花柄など、女性に人気の高いデザインを数多く手掛けています。
波佐見焼を見に行く
波佐見町は、古いレンガの煙突とモダンなカフェが共存する、散策が楽しい町です。
- 西の原(にしのはら): 製陶所の跡地をリノベーションしたエリア。おしゃれなショップやカフェ、工房が集まり、波佐見焼の「今」を体感できます。
- 波佐見陶芸の館 (くらわん館): 町内のほぼすべての窯元の作品が揃い、一堂に見比べることができます。
- 中尾山(なかおやま): かつて世界最大級の登り窯があった地域。今も多くの窯元が密集しており、路地裏を歩きながら窯元巡りが楽しめます。