岡山県備前市伊部周辺
備前焼の歴史
備前焼は、岡山県備前市伊部を中心に焼かれる、日本六古窯の中で最も古く、かつ最も純粋に中世の伝統を今に伝える産地の一つです。そのルーツは古墳時代の須恵器(すえき)に遡りますが、鎌倉時代から室町時代にかけて、現在の「無釉焼き締め(釉薬をかけずに焼く)」というスタイルが確立されました。
備前焼が黄金時代を迎えたのは桃山時代です。千利休を筆頭とする茶人たちが、余計な装飾を削ぎ落とした備前の「土そのものの美しさ」を「わび・さび」の体現として熱狂的に支持しました。特に、独特の歪みを持った花入や水指は「茶陶・備前」としてその地位を不動のものにします。
江戸時代に入ると、藩の保護を受けつつ実用的な雑器(すり鉢や瓶など)の生産も盛んになりますが、明治以降は磁器の普及により一時衰退します。しかし、昭和に入り、**金重陶陽(かねしげ とうよう)**が桃山時代の古備前の美を再発見・再興させ、備前焼で初めての人間国宝となったことで、再び芸術品としての評価を世界的なものにしました。
現在も、伊部の町には数多くの窯元と作家が集まり、伝統的な薪窯での制作を頑なに守り続けています。
備前焼の作風
備前焼の最大の特徴は、釉薬を一切使わず、絵付けもせず、ただ「土と炎」だけで作り出される**「焼き締め」**の技法にあります。1,200度以上の高温で、約1週間から10日以上かけて焼き続けられることで、土が極限まで緻密に締まり、金属のような硬質さと温かみのある肌合いが生まれます。
窯の中での置き場所や炎の当たり方によって生まれる「景色(火変り)」には、以下のような代表的なものがあります。
- 胡麻(ごま): 燃えた薪の灰が器に降りかかり、高温で溶けて自然に付着したもの。黄色や緑色の粒のように見えます。
- 緋襷(ひだすき): 藁を巻いて焼くことで、藁の成分と土が反応し、鮮やかな緋色の線が現れるもの。
- 桟切り(さんぎり): 灰に埋まった部分が、還元の影響で灰黒色や青褐色に変化したもの。
- 牡丹餅(ぼたもち): 他の器を上に置いた跡が、丸い模様として残ったもの。
また、備前焼の器は「使い込むほどに艶が出る」と言われ、長く愛用することで育つという楽しみがあるのも、多くの愛好家を惹きつける理由です。
備前焼の主な作家
- 金重陶陽
- 藤原啓
- 山本陶秀
- 藤原雄
- 伊勢崎淳
- 隠﨑隆一
- 森陶岳
備前焼を見に行く
「伊部」の駅を降りると、そこにはレンガ造りの煙突が立ち並ぶ、やきもの好きにはたまらない風景が広がっています。
- 備前焼伝統産業会館: 伊部駅に隣接しており、数多くの作家や窯元の作品を一度に見比べ、購入することができます。
- 岡山県備前陶芸美術館: 古備前の名品から歴代の人間国宝、現代作家の作品までを体系的に学ぶことができます。
- 天津神社: 境内の壁や屋根、狛犬までもが備前焼で作られており、産地ならではの光景が見られます。