兵庫県丹波篠山市周辺（今田町立杭）
丹波焼の歴史
丹波焼は、平安時代末期から鎌倉時代初めに始まったとされ、日本六古窯の一つに数えられる歴史ある産地です。その歴史は、同じ六古窯の常滑や信楽の影響を受けつつも、独自の進化を遂げました。
丹波焼の歴史を語る上で欠かせないのが、窯の変遷です。桃山時代までは「穴窯」で焼かれていましたが、慶長年間（江戸時代初期）に朝鮮半島から伝わったとされる「登り窯」がいち早く導入されました。現在も立杭（たちくい）の地に残る「丹波の古い登り窯」は、約120年以上前から現役で使われているものもあり、その傾斜を利用した巨大な姿は産地の象徴となっています。
江戸時代には、篠山藩の保護を受けつつ、茶道具から日常用の壺、甕（かめ）、徳利まで幅広く焼かれました。特に「丹波の海老徳利」などは、その素朴な味わいが広く親しまれました。
昭和に入ると、柳宗悦（やなぎ むねよし）を中心とした民藝運動の中で、その「飾り気のない、力強い用の美」が再評価されます。現在では、伝統的な焼き締めの技法を守りつつも、非常にモダンで使い勝手の良い「現代の生活に馴染む器」を作る若手作家が多く集まり、活気ある産地として注目されています。
丹波焼の作風
丹波焼の魅力は、**「灰被り（はいかぶり）」と呼ばれる自然の意匠と、「赤土」**の素朴な質感にあります。
- 自然釉と灰被り: 長時間薪で焼成される間に、舞い上がった灰が器に降りかかり、溶けて緑色のビードロ状になったり、土の色と混ざり合って独特の黒褐色や灰色の景色（灰被り）を生み出します。
- 左回転のろくろ: 丹波焼の伝統的な大きな特徴の一つに「蹴ろくろを左回転（反時計回り）で回す」という点があります。これは日本の他の多くの産地（右回転）とは逆であり、丹波特有の伝統として今も受け継がれています。
- 多彩な釉薬: 焼き締めだけでなく、江戸時代以降は「栗皮釉（くりかわゆう）」や「灰釉」など、落ち着いた色調の釉薬が発達し、和食を美しく引き立てる器として定着しました。
全体的に、信楽ほどの荒々しさはなく、備前ほどの重厚さとも異なる、「しっとりとした落ち着き」と「土の温かみ」を感じさせるのが丹波焼の持ち味です。
丹波焼の主な作家
- 市野信水
- 清水圭一
- 市野雅彦
- 今西公彦
- 大西雅文
丹波焼を見に行く
「立杭 陶の郷（すえのさと）」を中心に、約60もの窯元が1キロほどの狭いエリアに密集しており、歩いて窯元巡りができるのが魅力です。
- 立杭 陶の郷: 丹波焼の歴史資料館、現代作家の作品展示販売、陶芸体験が揃う総合施設です。
- 兵庫陶芸美術館: 陶の郷に隣接し、丹波焼をはじめとする世界の陶磁器を専門に扱う、景観も美しい美術館です。
- 最古の登り窯: 1895年（明治28年）に築かれた、全長約47メートルの現役の登り窯を見学することができます。